市況研究社日報

サウジアラビアの思惑

「市況研究社日報」(石油) 2018年 4月19日(木)

昨夜の原油市場は、米国石油統計発表あと、「サウジアラビアが原油価格=100ドル近傍を望んでいる」と伝わり、機関投資家の買いが一段高に押し上げた。

ブレント原油先物(ICE)2018年4月18日(水)
限月      始値   高値   安値  帳入値  前日比   終値
06月限 2018  71.72  73.93  71.66  73.48  +1.90 → 73.79
07月限 2018  71.05  73.26  71.04  72.84  +1.87 → 73.20
08月限 2018  70.53  72.69  70.53  72.28  +1.84 → 72.63
09月限 2018  70.04  72.09  70.04  71.71  +1.77 → 72.00
10月限 2018  69.64  71.51  69.64  71.13  +1.68 → 71.41

ロイターは以下のように伝えた。

NEW YORK, April 18 (Reuters) - Oil futures jumped nearly 3 percent on Wednesday on a decline in U.S. crude inventories and after sources signalled top exporter Saudi Arabia wants to see the crude price closer to $100 a barrel.

OPEC’s new price hawk Saudi Arabia would be happy for crude to rise to $80 or even $100, three industry sources said, a sign Riyadh will seek no changes to a supply-cutting deal even though the agreement’s original target is within sight.

OPEC’s ministerial committee tasked with monitoring the group’s supply-cutting deal with non-OPEC countries, led by Russia, meets in the Saudi city of Jeddah on Friday.

Oil has been supported by the perception among investors that tensions in the Middle East could lead to supply disruptions, including renewed U.S. sanctions against Iran, as well as falling output in crisis-hit Venezuela.

米国がイラン核合意から離脱するとき

米国のトランプ大統領は、5月12日を期限に核合意からの離脱をほのめかしている。

サウジアラビアのムハンマド皇太子は3月19日から4月7日まで3週間にわたって米国各地を訪問し、イランに再度制裁を課すよう会う人ごとに直訴して回った。

ワシントンでは、イラン核合意が大事と考える米政府関係者が、ムハンマドに同調する対イラン強硬派によって劣勢に追い込まれているといわれる。

3月13日、ティラーソン国務長官を解任し、後任に対イラン強硬派の
     マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官を起用

3月22日、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任し、
     後任に超タカ派のボルトン元国連大使を起用

サウジアラビアのムハンマド皇太子は、サウジ国軍にはできないことを「アル=カーイダ」系の武装勢力や「イスラム国」にやらせてきた。サウジアラビアの政府基金ではできないことを、金融市場の機関投資家にやらせてきた。欧米金融市場の機関投資家はサウジアラビアのムハンマドに連携し、原油市場で「買い策動」を繰り返している。

前回のイラン制裁

米国がイラン核合意から離脱すると「イラン原油が途絶する」と懸念する向きがあるかもしれません。当社では、5月12日にトランプ氏がイラン核合意からの離脱を決めた場合でも、前回の制裁下におけるイラン原油の実績が参考になると考えています。

イランは2011年に「日量250万バレル」あった原油輸出が、経済制裁によって2013年には「日量110万バレル」に減少し、2014年は「日量140万バレル」あたりで推移した。

イラン制裁によって「イラン原油がゼロになる」「供給が途絶する」わけではない。欧州やアジア諸国は2016年1月、イランに対する経済制裁を解除したが、米国はその後も何かと理由をつけては制裁を繰り返しており、極端な変化はないと思います。イランはイラクとの間で石油協定を結んできており、中国やインドなどに輸出が続くので、「日量110万~140万バレル」は維持すると思います。

サウジアラビアの「原油=100ドル」

昨夜の原油市場では、「サウジアラビアが原油価格=100ドル近傍を望んでいる」と伝わり、機関投資家の買いが一段高に押し上げた。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC諸国による共同閣僚監視委員会の会合がサウジアラビアのジッダで開催されるので、サウジアラビアは「原油=100ドル」を唱えることによって「減産継続」を広報したものと思います。OPECに「80ドル」や「100ドル」の価格目標があるわけでなく、取り沙汰された数字に根拠はない。

●OPEC減産と北米増産

サウジアラビアが2016年春から夏にかけて「OPEC減産計画」に動いていたとき、米国の原油生産は「日量855万バレル」あたりであった。

サウジアラビアは当時、「米国のシェール・オイルの増産には限界がある」と想定し、米国の原油生産が伸び悩むなかでOPECが「日量180万バレル」の減産を実施すれば、世界需給はタイトになると展望した。

しかし、米国の原油生産は2016年9月に「日量855万バレル」であったが、2017年2月に「日量905万バレル」、2017年11月には「日量1007万バレル」、2018年4月現在(週間速報値)では「日量1054万バレル」に増加した。来年(2019)11-12月には「日量1160万バレル」に拡大する見通しです。つまり、来年には「日量855万バレル」から「日量1160万バレル」へ「+300万バレル」の増産になる。

米国ではシェール・オイルの増産だけでなく、米メキシコ湾の海底油田の開発も進んでいる。米国原油の増産は2030年に向けて続く公算が大きい。米国やカナダ、ブラジルの原油増産は、OPEC減産を超えており、今後の国際的な需要増加分をカバーする。北米原油が欧州やアジアに向けて輸出される。

●80ドル、100ドル

昨夜の相場で、サウジアラビアから聞こえてきた「原油=80ドル、100ドル」は、「このままでは減産計画を止められない」という追い詰められた姿ではないかと思います。

米国の原油生産は本年4月現在(週間速報値)で「日量1054万バレル」となった。7月には「1070万バレル」、年末11-12月には「1130万バレル」に拡大する見通しです。カナダでも増産が続き、北米原油が欧州やアジアに輸出される。2016年にサウジアラビアが「減産計画」を取りまとめたときには考えもしなかったことが今後も拡大する。

         ┏━━━━━━━━━━━━┓    ┏━━━━━━━━━━━┓
週        米国原油生産 原油輸入 供給合計  原油処理量 原油輸出 需要合計
4/07-04/13/2018  1054万0千 793万0千 1847万0千  1694万9千 174万9千 1869万8千
4/08-04/14/2017  925万2千 781万0千 1706万2千  1693万8千  56万5千 1750万3千
4/09-04/15/2016  895万3千 818万7千 1714万0千  1610万4千  33万9千 1644万3千

米国やカナダ、ブラジルなどの増産に対して、サウジアラビアは旧来の手法である「減産」で対抗している。そして、欧米金融市場の機関投資家も、サウジアラビアの減産にチョーチンをつけて原油市場で買い策動を繰り返している。しかし、それは喩えて言えば、アニメの「ナルト」の「無限月読の術」のように、サウジアラビアの減産は「無限月読の減産」となって朽ちていく公算が大きい。

サウジの原油「80ドル」や「100ドル」に数字としての根拠はないと思います。

ムハンマド独裁は続くのか?

当社が直接、聞いたり、読んだりしたわけはありませんが、伝えられるところによれば、サウジアラビアのムハンマド皇太子は米国訪問中のインタビューで、「サウジアラビアがこれまで"イスラム国"などのイスラム過激派に資金支援を行ってきたことを認め、今後支援を打ち切る」と述べたとされる。

サウジアラビアのムハンマド皇太子は2015年3月、イエメンに侵攻し、3年が経過しても泥沼の中にある。サウジアラビア国軍にできないことは「アル=カーイダ」系の武装勢力や「イスラム国」にやらせてきた。サウジアラビアの政府基金ではできないことは、金融市場の機関投資家にやらせている。

そうしたサウジアラビアのムハンマド皇太子の政策は、イランに太刀打ちできずに、イランに対する敵愾心を強めた。

ムハンマド皇太子はイランをナチス・ドイツになぞらえる発言を繰り返している。米国訪問中の3週間、「イラン核合意の破棄」と「イランに対する新たな制裁」を主張した。彼はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、もし国際社会が制裁でイランを封じ込めなければ、今後10~15年以内に中東でイランと戦争になるだろうと述べたと伝えられた。サウジアラビアのムハンマド皇太子にとって、イラン敵視は国家存亡を賭けた戦いなのだろうと思います。しかし、それは従来のサウジアラビアの政策とは異なっており、持続するものだろうか?

今週20日(金)には、OPECとロシアなど非OPECによる共同閣僚監視委員会がサウジアラビアのジッダで開催される。OPECに価格目標を設定する力はない。普通の会議と考えています。

本日19日(木)のアジア原油市場

オマーンおよびドバイ原油=70.55ドル

今朝のブレント原油終値を基準に算定すると、アジア市場のマーカー原油である「オマーン」および「ドバイ原油」は「70.55ドル」がおおよその目安になる。

●為替「1ドル=107.40~107.20円」

本日19日(木)の為替を「1ドル=107.40~107.20円」と想定したとき、わが国石油会社の購入原油価格の基準は「47,610円/KL」です。CIF参考値の予想は、当社ウェブサイトに掲載しています。

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