市況研究社日報

アジア市況のガソリン・クラック低下

「市況研究社日報」(石油) 2018年 6月20日(水)

ブレント原油は週末まで一段安に下げていたが、今週は「ニューヨーク原油」(WTI)に対する価格差を再び拡大して反発している。週末から今週の原油相場の反発は「リビア情勢」を反映している可能性が高い。

但し、個人的意見としては、「リビア」のことよりも(ⅰ)アジア市況のガソリン・クラック低下や(ⅱ)「ブレント原油」と「ニューヨーク(WTI)」の価格差縮小の方が大事と考えています。これらは「原油の戻り」を抑える要素です。

リビアの石油「三日月」地帯の衝突

先週6月14日(木)、元石油施設警備隊司令官のイブラーヒム・シャドランは、マガルバ部族やタブ部族など「三日月地帯」出身の有志らと共に、「ラッス・ラノウフ」や「アッ・シドラ」など原油積み出しターミナルを奪回した。

最初、このニュースを見たとき、イブラーヒム・シャドランがこの時期に再び登場したことに驚きました。そして、これは「孤立無援」の闘いになるのでないかと思いました。

イブラーヒム・シャドランは5年前の2013年であれば、リビア東部のマガルバ部族出身の「石油施設警備隊司令官」として勢いがあった。しかし、今は政治的に凋落したものと考えていました。それが突如、先週6月14日(木)からハリファー・ハフタル将軍に戦いを挑んでいる。6月14日(木)に東部の石油「三日月」地帯の原油積み出しターミナルを奪回し、戦闘が続いている。

イブラーヒム・シャドランは6月17日(日)の声明で、(ⅰ)トリポリの「大統領評議会」への忠誠を繰り返し表明し、(ⅱ)「ラッス・ラノウフ」や「アッ・シドラ」の原油積み出しターミナルは「リビア国営石油」に開放されていると述べた。(ⅲ)そして、「リビア国営石油」による「ラッス・ラノウフ」および「アッ・シドラ」の不可抗力条項の発動を非難し、「リビア国営石油」総裁は政治的立場にもとづいて行動していると批判した。「リビア国民軍」を自称するハフタル軍の暴虐と不正義に対して、自らの権利を主張した。

マガルバ部族など「三日月地帯」出身の男達の戦いには、国連などが設立したトリポリの「大統領評議会」(国民合意政府)の支援はない。「リビア国営石油」の認知もない。イブラーヒム・シャドラン司令官の瞬発力で決起した可能性が高い。評論家的に言えば、自称「リビア国民軍」総司令官のハリファー・ハフタル将軍も元石油施設警備隊司令官のイブラーヒム・シャドランも、共に「盗人同士」と見る向きもあるが、ハフタル軍の不正義に対する抵抗はリビア東部でも底流している。

一方、ハリファー・ハフタル将軍は、現在のリビアで「突出した力」を持っている。ハフタル軍は「イスラム同胞団」系の組織を排撃しており、フランスや米国などの特殊部隊が加わり、エジプトやアラブ首長国連邦(UAE)の直接的な軍事支援もある。スーダンなどからの傭兵もある。サウジアラビアのムハンマド・サルマーン皇太子の支持もある。そうしたハフタル軍で目立つのは不法な暴力行使と不正義です。

国連など国際社会が仲介に立って設立したトリポリの「大統領評議会」は無力で、首都すら統治できていない。そういうなかで、元石油施設警備隊司令官のイブラーヒム・シャドランは、東部の石油「三日月」地帯の部族などの要求を背景に瞬発力で行動を起こした可能性が高い。<孤立無援の闘い>ではないかと思います。

ブレント原油は当初、ほとんど反応しなかったが、今週は「ニューヨーク原油」(WTI)との価格差を買って反発している。今週の石油市場はイブラーヒム・シャドランとハフタル将軍の戦いを見ている。

伝えられるところでは、リビア東部の「ラッス・ラノウフ」原油積み出しターミナルには13基の原油貯蔵タンクがあり、そのうち8基は2011年のカダフィ殺害時の内戦で損傷し、5基が無傷で残っていたが、今回の衝突でそのうち2基(タンクNo.2とNo.12)が被害を受けて炎上した。タンクNo.2に隣接するNo.1とNo.3への延焼はない。

6月19日(火)のニュースでは、「ラッス・ラノウフ」原油積み出しターミナルのNo.2、No.12の損傷で、原油貯蔵能力は「95万バレル」から「55万バレル」に減少したと伝えられた。これらのタンクがすべて倒壊すれば、「ラッス・ラノウフ」原油積み出しターミナルは使用できなくなる。製油所も稼働できなくなる。激しく黒煙をあげて炎上するタンクの画像(アドレス)を記します。

リビアの事柄は吟味が必要です。それぞれの原油出荷ターミナルの原油貯蔵能力と損傷程度は具体的な検証が必要と考えています。「ラッス・ラノウフ」原油積み出しターミナルに不可抗力条項を発動しても、内陸部油田から別の原油積み出しターミナルに迂回することもできるので、現在の石油「三日月」地帯の衝突がリビアの原油生産と輸出にどの程度影響するのか、結論を急ぐことはないと思います。個人的な意見としては、「リビア」のことより「アジア市況のガソリン・クラック低下」の方が重要と考えています。

アジア市況のガソリン・クラック低下

本年(2018)の原油高で、「原油」と「ガソリン」の価格差が縮小していることは、前日の「日報」でも記しました。アジア市場で「原油」と「ガソリン」の価格差(=クラック・スプレッド)が縮小し、原油高がガソリン価格に転嫁できていないことは<相場の弱材料>です。普通に考えて、原油の戻りを抑える要素です。

とくに本年4-6月期のアジア市況で、ガソリンのクラック・スプレッドが記録的に低下している。中国や東南アジアで製油所の精製能力の増強が続いており、その稼働率が高く推移すれば、アジア地域のガソリン供給はじゃぶじゃぶになる。6~8月のガソリン需要がそれを吸収しなければ、原油高をガソリン価格に十分転嫁できずに精製マージンを悪化させる公算が大きい。一般的に言って「ナフサ/ガソリン」は国際的に連動しているので、アジアだけが弱いということはない。北米や欧州も潤沢になっている可能性が高い。

●アジア市況のガソリン・クラック

本年(2018)と前年(2017)を比較します。「指標原油」と「ガソリン」の価格差が本年(2018)4~6月期は「バレルあたり10ドル」を切っています。

<2018 FOB シンガポール 92 RON ガソリン
      オマーン   ナフサ   ガソリン  Jet/    ガスオイル
日付      原油   NAF-SIN  GL92-SIN  Kerosine  0.5% S

06/19(18)  72.18   68.90   79.25   85.65   83.39
06/18(18)  71.06   68.12   79.05   84.36   82.10

06/15(18)  73.40   Hari Raya Puasa
06/14(18)  74.37   71.92   83.00   87.86   86.02
06/13(18)  73.52   70.98   81.55   87.04   85.20
06/12(18)  74.79   71.59   83.20   88.48   86.45
06/11(18)  74.29   71.67   83.15   87.98   85.93

06/08(18)  74.83   71.45   83.50   88.46   86.43
06/07(18)  73.57   70.63   82.15   86.89   85.02
06/06(18)  73.76   71.29   83.10   87.16   85.60
06/05(18)  73.53   71.48   83.00   87.78   85.85
06/04(18)  74.52   72.90   84.25   88.36   86.47

●前年同期

<2017 FOB シンガポール 92 RON ガソリン
      オマーン   ナフサ   ガソリン  Jet/    ガスオイル
日付      原油   NAF-SIN  GL92-SIN  Kerosine  0.5% S

06/23(17)  44.18   42.75   55.40   55.20   54.77
06/22(17)  43.55   42.48   54.10   54.30   54.05
06/21(17)  44.47   43.41   54.60   55.67   55.44
06/20(17)  45.76   44.19   56.00   56.65   56.46
06/19(17)  45.80   44.08   56.05   56.71   56.67

06/16(17)  45.95   44.31   56.35   56.71   56.67
06/15(17)  45.68   44.20   55.40   57.54   57.12
06/14(17)  46.93   45.55   57.10   57.49   57.13
06/13(17)  47.54   45.58   58.23   57.28   57.17
06/12(17)  47.26   45.66   58.55   56.48   56.04

06/09(17)  46.72   44.98   58.25   56.96   56.05
06/08(17)  47.28   45.37   58.75   57.00   56.67
06/07(17)  48.56   46.24   60.20   57.78   57.52
06/06(17)  48.02   46.63   60.10   57.70   57.46
06/05(17)  48.87   46.68   60.65   58.87   57.47

06/02(17)  48.52   46.29   60.40   58.34   57.48
06/01(17)  50.26   48.01   62.10   60.90   59.98
05/31(17)  49.92   47.87   62.10   60.97   60.03
05/30(17)  50.37   48.16   62.30   61.45   60.38
05/29(17)  50.64   47.97   62.50   61.52   60.67

05/26(17)  50.46   47.97   62.00   61.70   60.77
05/25(17)  52.90   49.81   63.80   64.25   63.48
05/24(17)  53.24   50.20   64.40   64.08   63.44
05/23(17)  52.35   49.75   63.60   62.89   62.40
05/22(17)  52.88   50.26   64.50   62.77   63.01

原油の市場間価格差の縮小=下げ歩調

当社では、原油の市場間価格差は縮小方向にあると考えています。

本年(2018)5月から6月相場で「ブレント原油」と「ニューヨーク原油」(WTI)の価格差が「10ドル以上」に拡大したのは異常であった。異常な水準に拡大したあとは縮小方向に反転する。日によって急反発したり、落ち着きのないジグザグがあっても、「ブレント原油」と「ニューヨーク原油」(WTI)の価格差は縮小方向をたどると考えています。今週の戻りは「リビア情勢」が影響している可能性が高い。当社では<価格差の縮小=下げの継続>を展望しています。

日付  ブレント原油8月限  NY(WTI)8月限   価格差

6月20日
6月19日     75.08     64.90      +10.18ドル
6月18日     75.34     65.69      + 9.65ドル

6月15日     73.44     64.85      + 8.59ドル
6月14日     75.94     66.69      + 9.25ドル
6月13日     76.74     66.52      +10.22ドル
6月12日     75.88     66.28      + 9.60ドル
6月11日     76.46     66.03      +10.43ドル

6月08日     76.46     65.67      +10.79ドル
6月07日     77.32     65.89      +11.43ドル ※ピーク
6月06日     75.36     64.70      +10.66ドル
6月05日     75.38     65.46      + 9.92ドル
6月04日     75.29     64.68      +10.61ドル

6月01日     76.79     65.77      +11.02ドル
5月31日     77.56     66.91      +10.65ドル
5月30日     77.72     68.08      + 9.64ドル
5月29日     75.49     66.62      + 8.87ドル
5月28日     75.32      --

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