市況研究社日報

景気サイクル終盤の金融不均衡

「市況研究社日報」(石油) 2018年12月25日(火)

当社「日報」では、11月20日以降の原油下げについて、「サウジアラビアがどうの、米国のシェール・オイル増産がどうの」ということではなく、金融市場の投資資金が「ポートフォリオのリスク削減」に取り組んでいる可能性が高いと分析してきました。

金融市場の短期資金が先行きの景気後退を意識するようになると、リスクを抑制しつつ、より高いインカムを求めて短期債投資が見直されるようになり、短期資金の動きが変化してくる。ただ、足もとのさまざまな不均衡の蓄積がリアルタイムで認識できているかと問われれば、現状はまだ手探りです。

※白川方明日銀総裁も、2000年代半ばにかけて世界経済が蓄積していたさまざまな大きな問題にリアルタイムで気付いていたかと問われると、気づいていなかったと述べています。当時積み上がりつつあった「不均衡」の形態を具体的に認識することはできていなかった。

「中央銀行-セントラルバンカーの経験した39年」(東洋経済新報社)p 203
バブルは毎回、異なった様相で到来し、「不均衡」を具体的に特定することは難しい。一般的な警戒感は表明できても、問題を具体的に提示しない限り、単なる警戒感の表明に終わってしまう。

同 p 208
経済の変動を作り出しているのは、持続的な成長軌道からかなり長期間にわたって乖離する、持続不可能な動きと理解した方が現実に合っている。さまざまな経済主体が将来の所得増加に過度に楽観的になり、債務金額が返済能力を超えて著しく増加すると、どこかの時点で返済可能な経路に戻るように経済活動が修正される。興味深いのは、物価の安定というそれ自体としては望ましいことが次の不均衡を生み出す要因になることである。また、物価の安定を目指した金融政策の運営自体が、経済主体のリスク認識にも影響を与え、不均衡を作り出す可能性もあることである。

同 p 209
「持続不可能」な状態を理解するうえで不可欠なのは、少なくとも、以下の2つの視点である。第1は、部門(セクター)間の不均衡という点である。消費財と投資財、住宅関連支出と非住宅関連支出、貿易財と非貿易財、借り手と貸し手等、多くの場合、不均衡は複数の部門間で発生する。第2は、現在と将来の不均衡という点である。バブル期に将来への過大な成長期待にもとづいて多額の支出を行うと、バブル崩壊後は支出を切り詰めざるをえない。過大な支出を可能にするのは信用の存在であり、この信用を扱うのが金融の役割である。

当社では、11月20日以降の原油下げ、株式の下げは、景気サイクルの終盤で金融市場の投資資金に変化が出ているとお伝えしてきました。熱狂がなくても、他に選択肢がないと債務の過剰やハイリスク商品への投資増加は起こり、金融不均衡が蓄積する。何が「引き金」になって「金融不均衡」が顕在化し連鎖するのか、その経路がわからないので、包括的に点検していく必要があります。2008年のリーマン破たんから10年が経過しています。

<景気サイクル終盤の債券(金利)>
<景気サイクル終盤の為替(ドル円)>
<景気サイクル終盤の株価指数>
<景気サイクル終盤の原油>
<景気サイクル終盤>の投資資金の動きを分析しようとしています。


市場人気は、株価が「反発」すれば楽観的になり、「反発」を過大評価する傾向がありますが、当社は株価が下落しようと反発しようと、<景気サイクル終盤の金融不均衡>に注意をはらい、日々の分析を続けていくつもりです。<景気サイクル終盤>は長く続くプロセスです。来年(2019)も金融資産が減価する公算が大きい。

景気サイクル終盤の円高

(1)欧米金融市場の投資資金は「株の買い」や「原油の買い」で利益をあげることができず、損失を出している。

(2)景気サイクルの終盤では、信用力の高い資産、利回りの高い資産として、短期債投資が見直される。

(3)景気サイクルの終盤では短期債投資が見直され、米国債が買い直されるので、米国債の利回りは低下する。米2年債が買い直され、米2年債利回りが低下すると、外為市場では日米金利差縮小から円高要因に働く可能性が高い。当然、財務省貿易統計の換算為替レートも円高方向に進む。

「中央銀行-セントラルバンカーの経験した39年」(東洋経済新報社)p 430
外国為替取引の中心は圧倒的に資本取引にもとづくものである。金融機関や投資家は各国通貨建ての資産の収益率やその分散を勘案しながら、また一方で、為替レートの変動を含めリスクが顕在化した場合の自らのリスク・テイク能力を勘案しながら、資産の選択を行っている。金融市場のグローバル化が進展する中で、為替レートは財・サービスの取引である経常取引の結果というよりも、そうした資産選択の結果として決まるようになっている。

2007年7月以降5年間の円高の要因は、圧倒的にグローバル金融危機や欧州債務危機の影響であった。グローバル金融危機は具体的には2つのルートを通じて円高をもたらした。ひとつは不確実性の高まりによる安全通貨買いである。もうひとつは内外金利差の縮小である。

「安全通貨」としての円

「中央銀行-セントラルバンカーの経験した39年」(東洋経済新報社) p 430~436
安全通貨(safe-haven currency)として円が買われたということは、日本経済の将来に対して悲観的な見方が多い中で一般にはすんなりとは理解されなかった。

「日本は財政事情も深刻で、潜在成長率も人口の減少によって低下しているにもかかわらず、なぜ、安全通貨として円が買われるのか」というのは総裁時代に最も頻繁に受けた質問のひとつであった。

外国為替取引においては、ある通貨が絶対的に安全であるかどうかは重要ではない。市場参加者が意識するのは、他の通貨と比較した相対的な安全性である。しかも、長期的視野ではなく、当面どの通貨建ての資産に「逃げておく」ことが賢明かという選択である。世界中の投資家や企業は常にそのことを考えている。一国の外貨準備を運用する各国の政府や中央銀行も例外ではない。

グローバル金融危機において通貨の安全性を左右する最も大きな要素のひとつは、一国全体としての外貨の資金繰りである。その面で日本は「要塞」のように強固な国であった。何よりも、経常収支は毎年黒字を計上しており、そうしたフローの累積である対外純資産額は2010年末時点では251.5兆円と世界最大であった。

中国の対外純資産額は日本に次いで世界第2位の規模を有していたが、通貨に対外交換性がないことや法の支配に対する安心感がないため、安全通貨にはなりえなかった。

投資家が安全通貨に期待する基準としては、対外交換性を有していること、金融市場がある程度の規模を備えていること、紛争が生じた時でも法の支配が貫徹していること、外貨の資金繰りにも不安がない国であることなどであろう。

内外金利差

内外金利差の縮小が円高をもたらした。

「中央銀行-セントラルバンカーの経験した39年」(東洋経済新報社) p 430~436
グローバル金融危機や欧州債務危機によって世界景気が後退すると、それぞれの国で金融緩和措置が講じられ、金利水準全般が低下する。日本も例外ではない。ただ大きな違いは、低下幅が限られていることであった。というのも、危機発生時点で短期金利はすでにゼロ金利制約に直面しており、低下余地はほとんど存在していなかった。長期金利は短期金利よりは高い水準にあったが、世界では最も低い水準にあり、低下余地にはおのずと限りがあった。

言い換えると、内外金利差は縮小することはあっても、日本の金融政策によって主体的に拡大させることはできない領域に位置していた。

円安誘導策としては、デンマークやスウェーデンの中央銀行がマイナス金利を導入して以降、決定会合でも2012年頃から当座預金に対するマイナス金利の設定が議論されるようになった。しかし、これによって民間銀行の預金金利をマイナスにすることができたとしても、マイナスにできる幅は限られている。というのも、もし、預金金利のマイナス幅が大きくなれば、預金者は銀行から預金を引き出し、現金を保有する可能性が高いと考えられるからである。したがって、マイナス金利を導入しても内外金利差を有意に拡大させることができるとは私には到底思えなかった。

金融市場参加者は内外の中央銀行の金融政策の運営スタンスに注目している。その金融政策の運営スタンスは、最終的には政策金利である短期金利の将来にわたる経路であらわされる。

将来の短期金利について、日本銀行はゼロ金利を継続する考えを表明していた。また、仮に日本銀行が将来の短期金利についてフォワードガイダンスを行っていなかったとしても、内外の経済状況から見て、短期金利は当分の間ゼロ金利が続くとの予想が支配的であった。日本の長期金利がきわめて低いという事実は、まさにそうした市場参加者の将来の金利予想を反映していた。

FRBは金融緩和を行う際、長期国債を買い入れるという方法をとるにせよ、あるいは、フォワードガイダンスという方法をとるにせよ、自国金利安の方向でイールドカーブの差を変化させることができる。その結果、FRBは金融緩和によって自国通貨安をもたらすことが可能であった。他方、日本銀行にはFRBの金融緩和の結果生じる金利差の縮小を相殺する手段がない。円高はそうした厳然たる現実を反映していた。

しかし、このことは為替レートをめぐる議論において意外に理解されていない。日本における為替レートの変動要因に関する議論は、グローバルな経済、金融情勢の中でさまざまな通貨の為替レートの変動を観察し、その中のひとつの動きとして円の為替レートの変動についても理解するという視点が全般に乏しいというのが私の印象である。

日米2年債利回り格差の縮小

短期資金の動きの指標として日米2年債利回り格差の方向を見るとき、日本は将来にわたって「ゼロ金利制約」が続くので、米2年債利回りだけを見ておれば用が足ります。米2年債利回りが続落していることによって、日米金利差が縮小しています。

Daily Treasury Yield Curve Rates (出所:米財務省)
      1mo 3mo 6mo 1yr 2yr 3yr 5yr 7yr 10yr 20yr 30yr
12/24(18) 2.42 2.45 2.52 2.61 2.55 2.56 2.58 2.66 2.74 2.88 3.00
12/21(18) 2.41 2.39 2.54 2.62 2.63 2.61 2.64 2.72 2.79 2.92 3.03
12/20(18) 2.42 2.39 2.55 2.64 2.67 2.65 2.65 2.72 2.79 2.92 3.02
12/19(18) 2.35 2.40 2.54 2.62 2.63 2.61 2.62 2.69 2.77 2.89 3.00
12/18(18) 2.35 2.39 2.53 2.64 2.65 2.64 2.65 2.74 2.82 2.96 3.07
12/17(18) 2.36 2.40 2.54 2.66 2.70 2.68 2.69 2.77 2.86 3.00 3.11
12/14(18) 2.36 2.42 2.56 2.68 2.73 2.72 2.73 2.81 2.89 3.03 3.14
12/13(18) 2.36 2.43 2.56 2.69 2.75 2.76 2.75 2.83 2.91 3.05 3.16
12/12(18) 2.30 2.43 2.56 2.70 2.77 2.78 2.77 2.84 2.91 3.04 3.15
12/11(18) 2.28 2.41 2.55 2.70 2.78 2.78 2.75 2.81 2.89 3.02 3.13
12/10(18) 2.32 2.41 2.54 2.69 2.72 2.73 2.71 2.77 2.85 3.00 3.13
12/07(18) 2.32 2.40 2.54 2.68 2.72 2.72 2.70 2.77 2.85 3.01 3.14
12/06(18) 2.36 2.41 2.56 2.70 2.75 2.76 2.75 2.80 2.87 3.01 3.14
12/04(18) 2.37 2.42 2.58 2.71 2.80 2.81 2.79 2.84 2.91 3.05 3.16
12/03(18) 2.30 2.38 2.56 2.72 2.83 2.84 2.83 2.90 2.98 3.15 3.27

      1mo 3mo 6mo 1yr 2yr 3yr 5yr 7yr 10yr 20yr 30yr
11/30(18) 2.31 2.37 2.52 2.70 2.80 2.83 2.84 2.92 3.01 3.19 3.30
11/29(18) 2.31 2.37 2.52 2.69 2.81 2.83 2.85 2.94 3.03 3.21 3.33
11/28(18) 2.31 2.40 2.53 2.69 2.81 2.84 2.87 2.97 3.06 3.23 3.34
11/27(18) 2.31 2.41 2.53 2.70 2.83 2.86 2.89 2.98 3.06 3.22 3.32
11/26(18) 2.24 2.41 2.54 2.70 2.84 2.86 2.90 2.98 3.07 3.22 3.32
11/23(18) 2.25 2.41 2.52 2.67 2.81 2.83 2.88 2.97 3.05 3.21 3.31
11/21(18) 2.25 2.41 2.52 2.67 2.81 2.84 2.89 2.98 3.06 3.22 3.31
11/20(18) 2.23 2.39 2.51 2.67 2.79 2.83 2.88 2.97 3.06 3.22 3.31
11/19(18) 2.23 2.38 2.52 2.66 2.79 2.82 2.87 2.97 3.06 3.22 3.32
11/16(18) 2.21 2.36 2.50 2.68 2.81 2.85 2.90 2.99 3.08 3.23 3.33
11/15(18) 2.20 2.37 2.51 2.70 2.86 2.91 2.94 3.02 3.11 3.27 3.36
11/14(18) 2.24 2.38 2.52 2.71 2.86 2.92 2.95 3.04 3.12 3.26 3.35
11/13(18) 2.24 2.38 2.53 2.72 2.89 2.95 2.99 3.07 3.14 3.28 3.36
11/09(18) 2.21 2.36 2.52 2.73 2.94 3.01 3.05 3.13 3.19 3.32 3.40
11/08(18) 2.21 2.35 2.52 2.74 2.98 3.05 3.09 3.17 3.24 3.36 3.43
11/07(18) 2.23 2.37 2.51 2.74 2.96 3.03 3.07 3.15 3.22 3.35 3.43
11/06(18) 2.23 2.35 2.52 2.72 2.93 3.01 3.05 3.14 3.22 3.35 3.43
11/05(18) 2.20 2.36 2.51 2.71 2.91 2.99 3.03 3.12 3.20 3.34 3.43
11/02(18) 2.19 2.33 2.50 2.70 2.91 2.98 3.04 3.13 3.22 3.37 3.46
11/01(18) 2.21 2.32 2.49 2.67 2.84 2.91 2.96 3.06 3.14 3.29 3.38

国際原油取引の指標

国際原油取引の指標はブレント原油(ICE)です。本日12月25日(火)のTOCOMは営業していますが、国際市場はクリスマスで休みです。アジア市場のオイル・ハブ=シンガポールも休みです。

本日の東京(TOCOM)ドバイ原油は、期近2番限=2019年1月限で「49.10ドル」見当。為替「1ドル=110.07円」で「33,990円/KL」です。

ブレント原油先物(ICE)2018年12月24日(月)
限月      始値   高値   安値  帳入値  前日比
02月限 2019  53.49  54.66  50.36  50.47  -3.35
03月限 2019  53.80  54.90  50.65  50.77  -3.33
04月限 2019  53.76  55.08  50.88  51.02  -3.28
05月限 2019  54.25  55.32  51.16  51.31  -3.26
06月限 2019  54.47  55.56  51.43  51.57  -3.24
07月限 2019  54.65  55.63  51.63  51.78  -3.23
08月限 2019  54.92  55.72  51.78  51.90  -3.23
09月限 2019  55.09  55.90  51.80  51.95  -3.21

ブレント原油先物(ICE) 2018年12月21日(金)
限月      始値   高値   安値  帳入値  前日比
02月限 2019  54.97  55.33  52.79  53.82  -0.53
03月限 2019  55.27  55.58  53.06  54.10  -0.55
04月限 2019  55.47  55.79  53.31  54.30  -0.59
05月限 2019  55.60  56.06  53.60  54.57  -0.60
06月限 2019  55.99  56.30  53.89  54.81  -0.61
07月限 2019  56.34  56.48  54.13  55.01  -0.62
08月限 2019  56.46  56.52  54.30  55.13  -0.62
09月限 2019  56.50  56.57  54.38  55.16  -0.63

ブレント原油先物(ICE) 2018年12月20日(木)
限月      始値   高値   安値  帳入値  前日比
02月限 2019  56.49  56.75  54.28  54.35  -2.89
03月限 2019  56.73  56.94  54.58  54.65  -2.80
04月限 2019  56.91  57.12  54.82  54.89  -2.74
05月限 2019  57.16  57.34  55.11  55.17  -2.70
06月限 2019  57.32  57.59  55.36  55.42  -2.67
07月限 2019  57.49  57.76  55.57  55.63  -2.62
08月限 2019  57.71  57.81  55.72  55.75  -2.57
09月限 2019  57.80  57.86  55.74  55.79  -2.52

ブレント原油先物(ICE) 2018年12月19日(水)
限月      始値   高値   安値  帳入値  前日比
02月限 2019  56.51  58.11  56.04  57.24  +0.98
03月限 2019  56.44  58.10  56.09  57.45  +1.22
04月限 2019  56.75  58.25  56.24  57.63  +1.25
05月限 2019  56.84  58.47  56.47  57.87  +1.24
06月限 2019  57.12  58.65  56.70  58.09  +1.24
07月限 2019  57.32  58.78  56.87  58.25  +1.24
08月限 2019  57.38  58.84  56.96  58.32  +1.24
09月限 2019  57.37  58.84  56.97  58.31  +1.23

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